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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)89号 判決

アメリカ合衆国

テキサス州78664 ラウンドロック パロマ ドライブ811

原告

カロルタッチ インコーポレーテッド

代表者

アーサー ビー カロル

訴訟代理人弁理士

役昌明

味岡良行

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

三谷浩

今野朗

土屋良弘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和61年審判第13683号事件について、平成3年11月14日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告(旧商号 カロル マニユフアクチユアリング コーポレーシヨン)は、昭和56年2月13日、名称を「光電入力装置」とする発明につき特許出願(特願昭56-19116号)をしたが、昭和61年2月17日に拒絶査定を受けたので、同年6月30日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第13683号事件として審理したうえ、平成3年11月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月25日、原告に送達された。

2  本願特許請求の範囲第1項記載の発明

別添審決書写し記載のとおり(以下「本願発明」という。)。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前頒布された刊行物である特開昭55-116206号公報(以下「引用例」といい、その発明を「引用例発明」という。)の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶すべきものとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例の記載事項の各認定は認める。本願発明と引用例発明の一致点の認定のうち、下記取消事由1において指摘する点は争い、その余は認める。相違点の認定は認め、相違点の判断は争う。

審決は、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点の判断を誤り(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、本願発明と引用例発明の一致点の認定において、引用例発明の「物体が第1検知装置により検知されてから第2の検知装置により検知されるまでの時間にもとづいて物体のスピードを検知する信号処理回路」が、本願発明の「一方の組の1つのビームのしゃ断と他方の組の1つのビームのしゃ断とに応答して前記2つのビームのしゃ断の間の時間差によって信号を発生する装置」に相当するとしている(審決書6頁9~16行)が、誤りである。

(1)  本願発明の目的は、本願明細書の記載を要約すると、「昆虫、雨滴、くずのような比較的小さい異物がビーム面を通ることによって入力の偽表示をすることなく、異物を弁別する機能を得ること」(甲第2号証明細書4頁4~8行)、「ビーム面で検出された物体の接近速度を決定する装置を得ること」(同7頁8~10行)、「制御装置に選択的に点モードまたは流れモードで動作させる装置を得ること」(同7頁17~19行)、「2つのビーム面のビームのしゃ断間の時差を用いて物体がビーム面に近づくとき物体の速度を決め、この速度を用いて指や針のような物体と指や針より速くまたは遅く動く他の物体とを弁別すること」(同9頁11~15行)であり、本願発明は上記目的を達成するために、特許請求の範囲に記載の「一方の組の1つのビームのしゃ断と他方の組の1つのビームのしゃ断とに応答して前記2つのビームのしゃ断の間の時間差によって信号を発生する装置」を構成要件とするものである。

(2)  本願発明において、2つのビーム面のしゃ断の間の時間差によって発生する信号は、本願図面(甲第2号証図面)第2図に示されている比較器105、112の出力線108、116、118から出力される信号であり、接触入力パネルに近づく指の速度が通常より減少すると、操作者がパネルのどの部分に触れるべきかを迷っている程度を表していると判断できる。したがって、この迷っている程度を認識して、操作者の習熟度に適したプログラムを選択することができる。また、接触入力パネルに近づく物体の速度が通常より速すぎる場合にも、その物体を異物と判定することができる。

さらに、2つのビーム面を同時にしゃ断せずに、いずれか一方のビーム面のみをしゃ断した場合にはアンド回路84から出力を発生しない。2つのビームを同時にしゃ断すること、かつ、適当な速度で接触入力パネルに接触された場合だけ、アンド回路120から出力を発生する。

(3)  これに対し、引用例発明において出力する信号は、ボールの通過速度と通過ゾーンを示す信号であり、本願発明における上記信号とは全く相違する。

すなわち、引用例発明のように、空間内を一方向から他方向ヘボール等の物体が移動する「ボール等の移動状態検出装置」にあっては、ボール等の物体は必ずある時間差で両発光フィールドを横切るので時間差があり、時間差の逆数が速度となる。

しかし、本願発明のような「光電入力装置」にあっては、指や針等は必ずしも両ビーム面を時間差をもって横切るとは限らず、両面を横切った状態で指等を移動することもあれば、一方のビーム面から他方のビーム面へ、又はその逆方向へ横切ったり、操作者の迷いにより、又は昆虫等により一方の面のみを横切る場合もあるのであって、本願発明における装置は、特に速度を求めることを意図するものではない。

したがって、引用例発明における速度を検出する出力信号と本願発明における上記信号は明らかに異なる。

以上のとおり、審決の上記一致点の認定は誤りである。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)

審決は、本願発明と引用例発明の相違点の判断において、「この相違における要件としてのしゃ断ビームの計数は、複数のビームにより作られる1平面における被検出物体の断面の長さを表わすデータを得るための要件である」と認定したうえ、「しゃ断されたビームの検知が該物体の位置信号を与えるとともにしゃ断ビーム数が該物体の長さデータを与えること、したがって長さデータを得るためにしゃ断ビームの計数手段を備えるようにすることは、周知の事項である」から、「計数手段の付加を導入し、物体の長さデータをも得るようになしたことにあたるこの相違点は、当業者が格別の創意を要することなくなし得るところと判断せざるを得ない」と判断している(審決書7頁19行~8頁20行)が、誤りである。

(1)  本願発明は、本願明細書に記載されているように、「1つより多くのビームを横切る物体のだいたい中心点を決める装置を持つ接触入力パネルを得ること」(甲第2号証明細書6頁19行~7頁1行)を主な日的とするものであり、この目的を達成するために、「各組のしゃ断されたビームを計数する各組ごとの計数装置と、各前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」よりなる構成要件を具備するものであり、これにより、しゃ断ビームを計数する計数装置の計数値を1/2に割算し、最後にしゃ断された計数値と加算して得た物体のだいたいの中心点を決める出力信号を発生するものである。

(2)  にもかかわらず、審決は、本願発明のビームを横切る物体のだいたいの中心点を決めるための要件である「計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」を、物体の長さデータのみを得るための「計数装置による計数値の出力信号を発生する装置」と誤認したため、判断を誤ったものである。

周知事項として審決が例示した特開昭55-87002号公報(甲第6号証)及び米国特許第3513444号明細書(甲第7号証)に記載された装置は、いずれも物体の長さデータを得るものにすぎず、本願発明のように多くのビームを横切る物体のだいたいの中心点を決める装置ではなく、本願発明とは無関係な刊行物というべきである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願発明の要旨に示された「時間差によって信号を発生する装置」という構成要件に対応する目的は、「物体の速度を決めること」にすぎない。

原告主張の「異物を弁別する機能を得ること」、「点モードまたは流れモードで動作させる装置を得ること」及び「物体の速度を用いて指や針のような物体と指や針より速くまたは遅く動く他の物体とを弁別すること」といった目的は、上記「時間差によって信号を発生する装置」という構成要件に、さらなる条件、すなわち、物体が何であるかを判別する条件あるいは動作モードを選択する条件を付加して初めて達成できるものであって、本願発明の構成要件に対応する目的自体とは別の目的をなすものであるから、これを根拠とする原告主張は失当である。

原告主張の本願図面第2図の構成に関する記載は、時間差によって信号を発生し物体の速度を決めるための装置から発する速さの程度を表す速度信号が、上記「別の目的」に沿って決められる基準に合うか否かを判断あるいは判定するために必要となる比較器105、112というさらなる要素を開示しているにすぎず、本願発明の要旨において、このような判断あるいは判定手段を構成要件としていることを示すものではない。そして、本願発明の要旨については原告の認めるところである以上、この点を原告の主張の根拠とするのは失当である。

また、原告は、「いずれか一方のビーム面のみをしゃ断した場合は・・・」という構成を根拠にして、その主張を述べているが、これは、一方のビーム面のみのしゃ断を前提としているのであるから、本願発明の「2つのビームのしゃ断の間の時間差によって信号を発生する装置」の構成に当たらないので、論外である。

したがって、一致点の認定の誤認をいう原告の主張は理由がない。

2  取消事由2について

本願発明の要旨とする「各組のしゃ断されたビームを計数する各組ごとの計数装置と、各前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」に相当する具体的構成は、本願図面第6図に関する記載のうち、カウンタ312及びこのカウンタの計数値を保持するラッチ回路316である。

原告主張の「物体のだいたいの中心点を決める」という目的に対応する構成は、上記第6図に関する記載のうち、シフト装置322及び加算器326が、これに当たる。

したがって、「物体のだいたいの中心点を決める」という目的に対応する構成を、これと別個独立した構成である「計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」に含ませることはできない。

本願明細書においては、原告主張の「物体のだいたいの中心点を決める」という主目的以外に、その他の独立した目的を表す記載として、「複数のビーム面と各ビーム面を画定する各組のビームの中のしゃ断されたビームの数を計数する装置を得ること」(甲第2号証明細書7頁20行~8頁2行)及び「複数のビーム面で画定された空間内の物体の寸法を検出する装置とを得ること」(同8頁3行~5行)が示されており、本願発明の要旨に示された上記構成は、この目的に整合するものである。

原告の主張は、「物体のだいたい中心点を決める」という本願発明の要旨外の構成により達成される目的を、本願発明の要旨の構成により達成されるものとするものであって、失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  本願発明の要旨に示された「一方の組の1つのビームのしゃ断と他方の組の1つのビームのしゃ断とに応答して前記2つのビームのしゃ断の間の時間差によって信号を発生する装置」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は光電入力装置、とくに1対の交差した光ビームのしや断によつて面内の物体の位置を検出する、一連の交差した光ビームを持つ接触入力パネルに関する。」(甲第2号証明細書2頁17~20行)、「本発明のおもな目的は、ビーム面の複数の平行な、間隔をとつたビームのうちの1つより多くのビームを横切る物体のだいたい中心点を決める装置を持つ接触入力パネルを得ることである。」(同6頁18行~7頁1行)、「本発明のさらに他の日的は、ビーム面で検出された物体の接近速度、またはその接近の間の物体の速度変化を決定する装置を得ることである。」(同7頁8~10行)、「本発明の他の目的は、複数のビーム面と各ビーム面を画定する各組のビームの中のしや断されたビームの数を計数する装置とを得ることである。」(同7頁末行~8頁2行)との各記載があり、また、本願発明の実施例に関して、「主ビーム面と補助ビーム面とのビームのしや断間の時差を用いて物体がビーム面に近づくとき物体の速度を決め、この速度を用いて指や針のような物体と指や針より速くまたは遅く動く他の物体とを弁別する。」(同9頁10~14行)、「側壁14の一方から複数のこのようなビームが出て側壁14の他方に達する。これらのビームは間隔をとつて平行に並んでいて、穴12の後ろにあるパネルに触れる人物または操作者は1つまたはそれ以上のビームをしや断する。ビームはビーム面と呼ぶ面内に並んでいる。」(同10頁17行~11頁2行)、「側壁14間のビームをここではXビームと呼び、上下壁16間のビームをYビームと呼ぶ。・・・Xビームの面をXビーム面、Yビームの面をYビーム面と呼ぶ。Xビーム面がYビーム面と一致したときにはこの面を主面と呼ぶ。第1図の装置では主面は穴12の後部の近くにつくられ、この面ではXビームとYビームとが交差する。補助Xビーム面が穴12の前部の近くに主面から間隔をとつてその前方にある。この面を補助面と呼ぶ。」(同11頁4~15行)との各記載がある。

これらの記載に照らすと、本願発明においては、ビームを遮断する物体について特定する記載はないが、何らかの物体が両ビームを遮断したときの時間差を検出し、この時間差によって何らかの信号を出力するものと認められる。そして、上記両ビームは、一定の間隔をもって設けられているから、その距離は定数としてとらえることができ、また、時間差の逆数が速度を表すことは自明というべきであるから、結局、上記時間差を検出する装置は、上記物体が両ビームを横切る速度を検出する作用を行うものと解することができる。

このことは、本願明細書の前記「本発明のさらに他の目的は、ビーム面で検出された物体の接近速度、またはその接近の間の物体の速度変化を決定する装置を得ることである」、「主ビーム面と補助ビーム面とのビームのしや断間の時差を用いて物体がビーム面に近づくとき物体の速度を決め」との記載に沿うものである。

一方、審決認定のとおり、引用例発明が、「物体がビームを遮ることにより該第1の検知装置により検知されてから同じく該第2の検知装置により検知されるまでの時間にもとづいて物体のスピードを検出する信号処理回路」(審決書4頁11~15行)を有することは、当事者間に争いがなく、この回路が、物体が2つのビーム面をそれぞれ遮断する時間差によって、物体の速度を検出する作用を有するものであることは明らかである。

したがって、本願発明の前記信号発生装置と引用例発明の前記信号処理回路を対比すると、物体の2つのビーム面の遮断の時間差によって物体の速度を検出する装置であるという点において、両者とも実質的に同じ構成により同じ作用効果を奏するものといえるから、審決が、後者が前者に相当すると認定したことに誤りは認められない。

(2)  もっとも、本願明細書の発明の詳細な説明中には、原告主張のとおり、本願発明の目的として、前記物体の速度を検出することの他に、「昆虫、雨滴、くずのように比較的小さい異物がビーム面を通ることによって入力の偽表示をすることなく、異物を弁別する機能を得ること」(甲第2号証明細書4頁4~8行)、「制御装置に選択的に点モードまたは流れモードで動作させる装置を得ること」(同7頁8~10行)及び「指や針のような物体と指や針より速くまたは遅く動く他の物体とを弁別する」(同9頁13~14行)ことといった目的が挙げられている。

しかし、本願発明の要旨には、上記のとおり、「時間差によって信号を発生する装置」としか規定されていないところ、この信号のみで、上記種々の目的を達成できるものとは認められない。上記種々の目的を達成するためには、この時間差によって発生する信号をさらに処理して、この目的に沿う信号を発生させるための別の構成を備えることが必要であると認められる。

すなわち、本願図面(甲第2号証図面)第2図に示される実施例を例にとれば、「時間差」による信号とは、カウンタ92からの時間差を表す信号を意味するのであって、原告主張の出力線108、116、118から出力される信号は、カウンタ92からの時間差を表す信号を、比較器105、112等からなる別の構成によって、さらなる処理(カウンタ92からの時間差tとあらかじめ記憶された定数値T1、T2とを比較して、108、116、118の各出力線に分別して信号を発生させる処理)を行うことによって生ずるものであり、その処理を行うことによって、上記「指や針のような物体と指や針より速くまたは遅く動く他の物体とを弁別する」という目的を達成するための出力信号が得られるものと認められる。

以上の事実から明らかなように、本願発明の要旨にいう「時間差によって信号を発生させる装置」は、それ自体としては、物体が両ビームを横切る速度を検出する作用を行う装置を意味し、本願明細書の全記載を検討しても、それ以上の作用を行う構成を意味するものとは認められず、上記種々の目的を達成するためには、これに付加して、時間差によって発生した信号を処理するためのさらなる構成が必要であると認められるところ、本願発明は、この付加的構成を要旨としていないものであるから、原告の上記主張は、本願発明の要旨に基づかない主張であり、採用することができない。

原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)について

(1)  本願発明の「各組のしゃ断されたビームを計数する各組ごとの計数装置と、各前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」について、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「本発明の他の目的は、複数のビーム面で画定された空間内の物体の寸法を検出する装置を得ることである。」(甲第2号証明細書8頁3~5行)と記載され、本願図面(甲第2号証図面)第8図に示されている実施例の説明として、「第8図の装置はまた空間408内を通る物体の大きさを知るのに用いることができる。これは、任意の1つの物体によつてしや断されたXビームの全数を計数し、これらの数を掛け合わせて第8図の装置の3面によって走査された空間内に完全にある物体の体積の関数である結果を得ることによつて行われる。」(同46頁5~12行)と記載されていることから明らかなように、ビームの間隔が一定とされている場合、しゃ断されたビームを計数して被検出物体の断面の長さデータを得る作用を行うことは明らかである。

そして、上記「前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」は、「計数に対応する」としか規定されていないから、原告主張のように、しゃ断ビームを計数する計数装置の計数値を1/2に割算し、最後にしゃ断された計数値と加算して得た物体のだいたいの中心点を決める出力信号を発生する作用を行う装置に限定されないことが明らかである。

(2)  引用例発明に、本願発明の「各組のしゃ断されたビームを計数する各組ごとの計数装置と、各前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置」を備えることについて記載がないことは、当事者間に争いがない。

しかし、引用例(甲第5号証)の記載によれば、引用例発明は、一平面に放射された複数ビームの被検出物体によるしゃ断の状態を光電的に検知する装置であることが認められるところ、審決が挙げる特開昭55-87002号公報(甲第6号証)及び米国特許第3513444号明細書(甲第7号証)によれば、この種検知装置において、長さデータを得るためにしゃ断ビームの計数手段を備えることは周知であると認められるから、結局、引用例発明に周知事項を適用し、長さデータに対応する出力信号を発生する装置を含む本願発明に至ることは、当業者が容易になしうるものというほかはない。

これと同旨の審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2も理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

理由

Ⅰ. 本願は、昭和56年2月13日の出願であって、その発明の要旨は、昭和61年1月17日付けおよび昭和61年7月30日付けの手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項および第7項に記載されたとおりの「光電入力装置」にあるものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下「第1発明」という)は、次のとおりである。

「正方形または長方形の穴を画定するハウジングと、前記穴の一側(第1側)に沿った列(1列)になって前記ハウジングに支持された複数の光源と、前記穴の前記一側のとなりの側(第2側)に沿った列(1列)になって前記ハウジングに支持された複数の光源と、前記穴の第3側に沿った列(1列)になって前記ハウジングに支持され、前記第2側の光源とともに1組のビームを画定して前記第1側と第3側との間に面を画定する複数の感光装置と、前記穴の第4側に沿った列(1列)になって前記ハウジングに支持され、前記第1側の光源とともに他の一組のビームを画定して前記第2側と第4側との間に他の面を画定する第2の複数の感光装置と、前記光源と感光装置とを前記ハウジングに取り付けて前記穴の面に垂直な方向に間隔をとった2つの別々の面の前記組のビームを発生する装置と、前記各組の1つまたはそれ以上のビームがいつしゃ断されたかを独立に検出する装置と、各組のしゃ断されたビームを計数する各組ごとの計数装置と、各前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置と、一方の組の1つのビームのしゃ断と他方の組の1つのビームのしゃ断とに応答して前記2つのビームのしゃ断の間の時間差によって信号を発生する装置とを備えた光電入力装置。」

Ⅱ. これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開昭55-116206号公報(昭和55年9月6日出願公開、以下「引用例」という)には、物体をその移動状態において光電的に検出することを目的とする装置が記載されており、その構成は、次のとおりのものと認められる。

4角形の支持枠の垂直部および水平部に設けられた複数の光源でそれらから発生するビームが同一平面に存在するように配列されたものと、該光源から発する各ビームを受けるように該支持枠の垂直部および水平部に配列された複数の受光素子とから成る第1の検知装置と、該支持枠に設けられ、該第1の検知装置と同じ光源および受光素子の配列をなすが相互に所定の距離を隔ててなる第2の検知装置と、物体がどのビームを遮ったかにより物体の位置を検出し、物体がビームを遮ることにより該第1の検知装置により検知されてから同じく該第2の検知装置により検知されるまでの時間にもとづいて物体のスピードを検出する信号処理回路と、該処理回路の検出信号が入力されるデータレコーダおよび表示器とを備えた物体の移動状態検出装置。

Ⅲ. そこで、本願第1発明と引用例記載のものとを対比すると、両者は、物体をその移動状態において、光電的に検出するという同一の目的を有するもので、構成上次の点で一致する。

正方形または長方形の穴を画定するハウジング(引用例記載のものにおいて「4角形の支持枠」がこれに相当する)と、前記穴の第1側に沿った列になって前記ハウジングに支持された複数の光源(引用例記載のものにおいて「第1の検知装置の垂直部に配列された複数の光源」がこれに相当する)と、前記穴の前記第1側のとなりの第2側に沿った列になって前記ハウジングに支持された複数の光源(引用例記載のものにおいて「第2の検知装置の水平部に配列された複数の光源」がこれに相当する)と、前記穴の第3側に沿った列になって前記ハウジングに支持され前記第1側の光源とともに1組のビームを画定する複数の感光装置(引用例記載のものにおいて「第1の検知装置の垂直部に配列された複数の受光素子」がこれに相当する)と、前記穴の第4側に沿った列になって前記ハウジングに支持され前記第2側の光源とともに他の1組のビームを画定して前記第2側と第4側との間に他の面を画定する第2の複数の感光装置(引用例記載のものにおいて「第2の検知装置の水平部に配列された複数の受光素子」がこれに相当する)と、前記光源と感光装置とを前記ハウジングに取り付けて前記穴の面に垂直な方向に間隔をとった2つの別々の面の前記組のビームを発生する装置(引用例記載のものにおいて「相互に所定の距離を隔ててなる第1および第2の検知装置」がこれに相当する)と、一方の組の1つのビームのしゃ断と他方の組の1つのビームのしゃ断とに応答して前記2つのビームのしゃ断の間の時間差によって信号を発生する装置(引用例記載のものにおいて「物体が第1の検知装置により検知されてから第2の検知装置により検知されるまでの時間にもとづいて物体のスピードを検出する信号処理回路」がこれに相当する)とを備えた光電入力装置。

なお、上記一致点の記載中の「光電入力装置」という表現における「入力」は、本願第1発明において、発明の構成としての実質をなす当該検出信号の発生装置によって得られる結果をデータとして利用し得る、すなわち利用装置からみれば入力となし得るということの表現であり、特定の利用条件にもとづくところの格別の手段を伴っているわけではなく、1方、引用例記載のものも検出結果としてのデータをデータレコーダおよび表示器へ入力しており、このことは、検出データの利用装置への入力手段をなすものといえるので、この「光電入力装置」という表現は、両者の一致点を表わすに他ならない。

また、両者は、次の点で相違する。

本願第1発明において、各組のしゃ断されたビームを計数する各組ごとの計数装置と各前記計数装置による計数に対応する出力信号を発生する装置を備えているのに対して、引用例記載のものにおいて、このような装置を備えることについて記載がない。

Ⅳ. ついで、この相違点を検討する。

この相違における要件としてのしゃ断ビームの計数は、複数のビームにより作られる1平面における被検出物体の断面の長さを表わすデータを得るための要件であるところ、従来より1平面に放射された複数ビームの被検出物体によるしゃ断の状態を光電的に検知する装置において、しゃ断されたビームの検知が該物体の位置信号を与えるとともにしゃ断ビーム数が該物体の長さデータを与えること、したがって長さデータを得るためにしゃ断ビームの計数手段を備えるようにすることは、周知の事項である(必要があれば、例えば、特開昭55-87002号公報および米国特許第3513444号明細書、参照)から、1平面に放射された複数ビームの被検出物体によるしゃ断の状態を光電的に検知する従来から存在する装置と同じ構成をなすところの引用例記載のものにおける第1および第2の各検知装置においてかかる周知の事項としての計数手段の付加を導入し、物体の長さデータをも得るようになしたことにあたるこの相違点は、当業者が格別の創意を要することなくなし得るところと判断せざるを得ない。

Ⅴ. したがって、本願第1発明は、引用例記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

以上のとおりであるから、特許請求の範囲の第7項の発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶を免れることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年11月14日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

昭和61年審判第13683号

審決

アメリカ合衆国イリノイ州シヤンペイン ヘイガン ストリート 1212

請求人 カロル マニユフアクチユアリング コーポレーシヨン

東京都千代田区一番町25番地 ダイヤモンドプラザビル6階 小沢国際特許事務所

代理人弁理士 小沢慶之輔

昭和56年 特許願第19116号「光電入力装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和57年8月28日出願公開、特開昭57-139606)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

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